<中部経済新聞 2002.12.16付:転載許可済み>
 
「モノづくりの基盤支える金型
 
上田勝弘(社)日本金型工業会会長に聞く
 

 日本の金型業界はモノづくりを支える産業として国際的に高い競争力を誇ってきた。
しかし近年、中国が安い人件費や技術レベルの向上で急速に力を付け、中小零細メーカーの多い金型業界は厳しい対応を迫られている。また最近は金型の設計図面や加工データの流出などの問題もあり、取引改善への取り組みも避けて通れない。社団法人日本金型工業会会長の上田勝弘氏(大垣精工社長)は「わが国の業界は超大型、超精密、超複雑加工に特化して、技術的な優位を保たなければならない」と語る。そこで上田会長に業界の現状や今後の見通しを聞いた。


危機感を強める 途上国の追い上げで

■業界の現況

−まず業界の現状について

 「経済産業省の機械統計によると、国内の金型生産額は平成13年に4,123億円となり、最近のピーク時の同9年に比べて19%減少した。今年も減少傾向は続き、5年連続で前年割れとなる恐れもある。製品別に見るとプレス金型とプラスチック金型が二大分野。長期不況による受注の減少で、国内のメーカーは設備投資も思うようにできないのが現状だ」

 「一方、中国のメーカーは外資系を中心に設備投資が活発で、生産性や技術力が急速に向上。量産品の品質では国内メーカーと遜色がないところまで来ている」

 「現在日本金型工業会に所属している企業は約880社。国内の金型メーカーの総数は約1万数千社あるといわれ、ほとんどが中小零細メーカー。多くが製造業の空洞化の影響をもろに受け、危機感を強めている」

―製造業の多くが中国に工場を構える中で、その対策は

[研磨ライン]

 「中国の金型業界の現状を探るため、工業会では今年3月に視察団を派遣した。3班に分かれてそれぞれプラスチック金型、プレス金型、ユーザーの現況を視察した。私はプラスチック金型調査団とともに寧波市を訪問。ここのメーカーは日用雑貨向け金型などに強いものの、ベテラン技術者が少なく技術の蓄積は浅い。日本や台湾のメーカーに比べればかなりの開きがあると感じた。現状ではまだ怖くはないが、気になるのはわが国の人材の中国流出の動き。高齢のためわが国の企業からリストラされたベテラン技術者が、中国のメーカーに新天地を求めるケースが出ている。モノづくりの貴重なノウハウが中国に流出し、国内メーカーの空洞化をさらに促すのではと懸念している」

正当な対価明確化へ 機密保持の契約書も

■図面の流出防止

―そんな中、今年に入ってから金型図面や加工データなどの知的財産の流出問題が深刻化しているが

 「われわれが作成した金型図面や加工データなどの貴重な情報が、ユーザー業界を通じて海外に流出し、国際競争力の低下を招きかねない事態になっている。金型図面はそれ自体がノウハウの塊で知的財産として保護されるべきものだが、これらの授受に際してユーザー業界とほとんど契約が交わされていなかった。われわれの業界は中小零細企業が多いこともあり、取引において正当な権利を行使しにくかった面もある。このため工業会では6月に金型図面等不正流出問題に関する要望書を経済産業省に提出した」

 「これを受けて同省は7月12日付けで金型図面などの意図せざる流出の防止に関する指針を関係業界に通知した」

 「指針では、意図せざる流出を放置すれば金型業界の脆弱化をもたらしかねない、との観点から、金型取引に当たり、契約の実態を正確に反映した契約書をつくること、金型図面の授受により相手方のノウハウを知りうる場合には機密保持契約を結ぶこと、その際には正当な対価を明確化するよう務めること、などが盛り込まれている」

 「これまではユーザー業界の倫理観の欠如によりコピー製品が出回ったこともあったが、今後そのようなことはなくなると期待している」

―指針を受けて、工業会としては今後どのような対策を

 「われわれとしては、業界が一方的な不利益を被らないよう、現在基本契約書のひな型づくりを進めている。年内にもそれを配布し、取引の改善に寄与することを期待している」

「超」がキーワード 製品の信頼性高める

■業界の展望

―中国などの追い上げに対抗し業界の生き残りと体質強化を図るために必要なことは

 「この業界は一品生産が中心で、ひとつひとつの製品の信頼性を高めていくことが生き残りにつながる。中国の技術は年々上がっているものの、精密金型などの分野ではまだ競争力は弱い。中国に進出したメーカーも、ここ一番の大切なものをつくる時はやはり日本製でないと、との認識は高まっている。結果的に高品質であれば高くても買ってもらえる」

―高級品の分野では日本はまだまだやれるということですね

 「金型に限らず、部品などの分野でも日本企業の製品の信頼性は定評がある。ただ高度な信頼性を要求される分野の市場はそれほど大きくはない。国内の金型メーカーの20%は大変強いものの、残り80%は今後も中国などとの競争にさらされていくだろう」

 「中国のメーカーもCAD/CAMなどの普及で、ある程度の品質のものをつくるノウハウは持っている。そこで日本は産学の連携を進め、開発力を強化する必要がある。また、技術者も育てていかなければならない」
 「わが国の強みはベテラン技術者の層が厚いことだ。金型は特に技術的な蓄積が重要な分野であり、総合力では中国はまだ日本にかなわない」

―最後にこれからの日本の金型メーカーの進むべき道は

 「私は『超』がキーワードだと思っている。すなわち超大型金型に特化する、A超複雑、超精密加工を手掛ける、超高スピードの金型加工を行う。この3点が重要。さらにチタン、アモルファス、ニューセラミックなどの新素材に特化するか、合理化、省力化装置を組み込んだシステムを構築するなど、他にない特色のある経営を目指すことが大切だ。これらのことをきちんとやれば、道は開けると思っている。『超』の意味はだれでもがやれる並みの技術でないという事だ」


<データ>

(社)日本金型工業会の概要

 日本金型工業会は、昭和32年に発足した。主な事業内容は金型に関する生産、流通、技術などの調査・研究や、規格の立案・推進、情報の収集・提供など。さらに金型に関する普及・啓発活動や金型工業の構造改善計画の作成、推進・指導なども行っている。

 本部は東京に置かれ、東部、中郡、西部の3支部をもつ。各支部は本部と連携しながら地域に密着した独自の委員会、部会活動を行っており、経営講習会、技術情報の提供、技術講習会、工場見学会などを開いている。

 また、各種教育機関との連携も活発に行っているほか、会員従業員の親睦を深めるための催しも開催している。

 昭和32年に発足以来、欧州や米国に視察団を相次いで派遣。また金型部品の共同生産、国際会議への参加、技術フォーラムや技術展の開催など、業界の振興のために様々な事業を行ってきた。

 平成6年には社団法人となり、金型製造業の構造改善計画に取り組むなど、その役割はますます高まっている。今年も中国や東南アジアに視察団を派遣し、情報収集活動は活発だ。

 

 

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