「2002年 ITC金型調査報告
 
United Sates International Trade Commission
"Tools ,Dies, and Industrial Molds:Competitive Conditions in the United States and Selected Foreign Markets"
 
−国際競争、縮小する市場、コストの上昇 金型産業の直面する問題の根源−
 

目 次

1.序言
2.国内産業の概況
 (1)米国金型産業の景気状況
 (2)市場の特徴とトレンド
 (3)国際貿易
 (4)政府の支援プログラム
3.幾つかの外国金型産業の状況
 (1)北米
  @ カナダ
  A メキシコ
 (2)アジア
  @ 日本
  A 中国
  B 香港
  C 台湾
 (3)ヨーロッパ連合(EU)
  @ ドイツ
  A ポルトガル
4.米国と外国の競争力比較
5.近い将来業界が直面する課題と潜在的な問題点

 2002年5月21日、アメリカITC(International Trade Commission)による金型の国際競争力調査事業の公聴会が開かれた。ITCの調査が行われた背景については、「ITC公聴会報告」でお知らせしたが、その結果が、全容については下記のURLのような長文のレポートにまとめられた。

http://www.ntma.org/Media/EDocs/ITC_Final_Report.pdf

 

 
【提供:黒田彰一国際金型協会会長】
 
米国下院議員Phil English発表
14010 Longworth House Office Building
Washington, D.C. 20515
 
公開情報
2002年10月25日
 
国際競争,縮小する市場,コストの上昇
金型産業の直面する問題の根源
 
English議員は総合的な対策を求めて業界と協力することを誓約
 
 

 【ペンシルバニア州エリー発】−ITCの米国金型業界の国際競争力調査報告書によれば,国内の業界の諸問題は海外企業との競争,国内需要の減少,コストの上昇がその根源であることが明らかになった。

 調査書を慎重に検討の結果,下院議員Phil English氏(ペンシルバニア選出,共和党)は本日、総合的な対策を見いだすため,業界と密接に協力することを誓約した。

 「調査報告の内容は十分予測されたことであったが、アメリカの金型製造業者が回復し、繁栄するためには政府の協力が不可欠であることが明らかとなった」と、下院政策委員会の一員としてITCの調査を推進したEnglish氏は言う。

 「私はブッシュ政権とともに、アメリカの経済と安全保障にとって極めて重要なこの産業が再び栄えることができるよう、国としてなし得るあらゆる手段をとるよう努力することを誓約するものである。」

 「海外との競合はまことに大きな関心事であり、私は政府と協力して海外貿易関連の諸施策を動員して、わが国の金型業者が公平な国際競争場裡で競争できるよう努力する」

 「ITCの調査で明確になったことは、周期的に繰り返される供給過剰生産能力という問題が国内市場の縮小によって引き起こされるものであり、これはアメリカの需要業界の海外移転とアメリカ製品を下回る価格の製品の輸入によるものである。」

 「これまで多くの金型の需要業者が原価引き下げのために海外に移転し、その結果需要が減少した。政府としてこれらの業者が国内にとどまり、より高精度のアメリカ製の金型を購入し続けるようにするためには、数々の助成策があるのである。」
「ITCの調査で明確になったことは、周期的に繰り返される供給過剰生産能力という問題は国内市場の縮小によるものであり、これは需要業界の海外移転と、アメリカ製品を下回る値段の製品の輸入が原因である。」

 「ハイエンドの製品を作るのに必要な高度熟練技能者の賃金の上昇と、経営者が負担する健康保険の経費とが重なって全体の労働、コストの上昇を招き国内の金型産業が海外のメーカーと競争する力を阻害する原因となっている。そしてまた、米国経済の停滞が新商品に対する需要の低下を招き,今日の金型需要の劇的な縮小につながっている。」

 「ITCの調査は金型産業に周期的に起こる不況の原因を明らかにするとともに、これらの問題に対処するためのいくつかの政策を勧告している。現在のアメリカの法律や条例を変更して新技術への投資と、マーケティングと技術開発について全産業にわたっての協力を促し、金型工業会のメンバーが団体健康保険を契約することができるようにすること−これらがITC勧告の中のいくつかの提案である。」

 「ITCの調査から引き出された多くの提案は新しいものではなく、かつて私がすべての国内製造業、とりわけ金型産業を支援するために提唱したいくつかの施策を裏書きするものである。私は第107回議会の間を通じ多くの経済刺激策を提案してきたが、新たにこれらを包含して1つの経済回復のためのパッケージとし、議会が今年末までに結論を出すことを望んでいる。投資減税と中小企業政策予算の増額はその一部である。」

 「この調査は国内金型産業の復活を実現するための重要な第一歩である。なぜなら金型産業が直面する諸問題を、包括して示す多くのデータをわれわれに与えているからである。われわれは金型業界を立ち直ら出せるために多くのことを成し遂げなければならない。私はそのために関連諸団体と協力しようと決心している。」

 私、Englishは、貿易に関する立法の権限を持つ会員政策委員会のメンバーとして、私の選挙区の金型業者たちと協議を重ね、彼らの見解に従えばたとえば中国のような国々の不公正な取引によって、いかに彼らが苦しんでいるかを認識した結果、ITCの調査を要求するよう委員会に働きかけた。その結果、米国の貿易に関する事項について裁判所としての機能を持つITCは,第332条に基づく調査を実施し業界の競争力についての構造的な問題を明らかにしたのである。<以下にITCの調査から抽出した要約を記す。>


プレス型、モールド型;米国内及びいくつかの海外市場における競争の状況

ITC調査第332―431
ITC調査からの抜粋

1.序言

 この調査は米国下院政策委員会の2001年12月20日付の書簡によって要請されたものである。委員会は、International Trade Commission(ITC)が、米国の金型業界が当面するプレス型およびモールド型(Tool and Die, Mold―以下TDMと略称),あるいは総称してツーリング産業の競争状況について実態調査を開始するよう求めた。

 コミッションのリポートは米国市場のトレンドと米国のTDM業界の概況、ならびにグローバルなトレンドの展望、さらに主要な海外の市場と業界の評価を行ったものである。

 対象国としては中国、台湾、日本、カナダ、メキシコおよびEU諸国(ドイツとポルトガル)を含み、内容としては主要な対応すべき課題と近未来における潜在的な問題を検討し、さらに米国ならびに海外の業界の、それぞれの長所と弱点を1,977年から2,001年の期間について比較したものである。

 米国のTDM産業はいくつかの主要なジレンマを抱えている。すなわち、
  (1) 最近の米国経済の下降と回復の遅いこと
  (2) 製造業の海外移転による国内市場の縮小
  (3) 国内市場からの需要の減退と新技術の創出の停滞
  (4) より低廉な価格とより一層のサービスに対する顧客の要求
  (5) 海外からの競争の増大
  (6) コスト−特に労働に関連するコストの上昇である。

2.国内産業の概況

 米国には約7,000の事業所があり、その90%以上は従業員50人以下の規模である。

 TDMの活動は、歴史的にみても広範な製造業の中心となった地域に集結している。すなわちミシガン、イリノイ、オハイオ、カリフォルニア、ペンシルバニア、インディアナ、ウィスコンシンの諸州に多い。

 国内メーカーの多くは先進的な生産設備と、高度なコンピューターのソフトウエアを導入し、リードタイムの短縮、生産性の向上と生産能力の拡大を達成している。

 近年の不況の結果、最近の業界情報によると多くの企業は規模縮小を行い、また多数の企業の廃業が見られる(過去3年間に少なくとも200社)。

 生産高と時間当たり収益は1,997年から2,000年にかけて微増したが、公表されたデータによれば、2,001年から2,002年の間に就業者数も、平均の週間労働時間も急激に落ち込んでいる。

 質問書への回答のデータによっても、この間生産高20%下落し、就業者数も週間労働時間も急激に低下している。

 (1)米国金型産業の景気状況

 TDMメーカーの経理状況はコミッションの質問書への回答によると、1,999年から2,000年にかけてわずか上昇した後、2,000年から2,001年の間に急速に悪化している。

 指標の示すところでは純売上高に対する金型製造業の経常利益率は1%以下、キャッシュフローも減少、純売上高に対する経常利益が損失となった企業の数はほぼ2倍となった。

 これら欠損企業からの回答によると売上高に対する研究開発に投資した費用は相対的に低い。1,999年から2,000年には設備投資が異常に低下したがなお原価償却費を上回り、工場や設備の残高が増加する原因となっている。企業のキャッシュフローは、積み立てられた資金と保証債務で成り立っている。

 (2)市場の特徴とトレンド

 金型の需要は自動車産業の新車開発に依存するところが大きい(金型全需要のおよそ50%)ので、金型業界は自動車業界がバランスシート改善のために新車投入を遅らせた過去2年の間に体質が弱まることとなった。

 同時にこれまで金型業界の需要業界であった産業、たとえば家電業界などではアメリカ国内で生産する場合には、競争の激化によりコスト削減のために価格が低廉な外国から金型を調達せざるをえなくなった。

 競争の激化により多くの需用産業(自動車、家電、エレクトロニクス、情報通信)では商品サイクルの短縮が必要となり、金型メーカーにもリードタイムを短縮してそれら大メーカーのOEMの要求に対応するよう求めることとなった。多くの場合リードタイムの短縮は、外国、とりわけアジアの金型メーカーを利することとなった。なぜなら彼らは顧客の要求にこたえて工場をしばしば24時間操業するからである。

 出荷が簡単な多くの商品、たとえば小型家電、エレクトロニクス、あるいはテレコミニュケーションの部品などのメーカーにとっては、低賃金のアジアのような外国で生産してアメリカに出荷するのがコスト上有利となった。このような事例はとくにエアコン、ラジオ、真空掃除機、電動工具、テレビジョン、電話器に見られ、外国での生産はなお増加し続けている。この状況はアメリカの金型業界にとって厳しいもので、これらの製品に対する金型の需要は、製品それ自体の製造とともに外国に移転してしまう結果となった。

 (3)国際貿易

 カナダはアメリカの金型の最大の貿易相手国で、2,001年度米国への輸入の41%、米国からの輸出の34%を占める。その他の重要な貿易相手国は日本(輸入額の33%)、およびEU(輸入額のほぼ16%)である。

 米国の金型の各国からの輸入額のピークは1,999年か2,000年であったが、各国の中で中国と韓国からの輸入は2,001年度も上昇し、金額的には低レベルであるとはいうもののそれぞれ191%248%の伸びであった。

 米国の金型輸出の主要相手国は中国以外ではメキシコで、2,001年度全輸出額の27%を占める。中国とメキシコへの輸出が多いのでその他の輸出先は影が薄く、第3位の輸出先のドイツは全輸出額の約4%にすぎない状況である。

 米国における金型の総需要のうち、輸入の占める比率は1,999年から2,000年の間かなり安定している。しかしながらコミッションの質問書のデータによれば2,001年には輸入品のシェアの増加が認められる。1,999年から2,001年の全体の輸出額は比較的安定していたが、その中でも目立つ変化はカナダ(約45%ダウン)とメキシコ(27%の上昇)である。

 (4)政府の支援プログラム

 コミッションの質問書に返答を寄せた何社かの金型メーカーは、政府の支援プログラムへ参加することについて、全体として前向きである。

 金型企業は連邦および州政府の広範な支援プログラムを通じて、債務保証や運転資金調達の手段を講ずることができる。これは通常の銀行取引では難しい短期の資金が必要なときに、役立たせる目的で設けられた政策である。

 その他企業の競争力強化のためのプログラムもある。この支援策は各種の企業活動、たとえば、ISO認証その他の品質保証規格の証明取得、材料技術の研究、コンピューターシステムや生産上のソフトウエアの構築、見習い工養成制度や作業者の訓練計画、生産性向上運動、経営企画、市場調査、エネルギー監査、ITや電子取引、税の減免など多岐にわたっている。

 コミッションの質問書へのその他の回答の中には、支援を得るための手続きの中には必ずしも企業のニーズにマッチしないものもあり、他の支援プログラムに比べてガイドラインが厳しすぎるとの指摘もあった。

 ほかのケースでは、一般に妥当と思われる手数料や、書類を作ることの要求が重荷であるとの指摘もあり、また支援プログラムの中には金型企業が負担する機械の取得や、レーバーコストに関連する費用についての支援の限度額が、不十分であるとする例もある。

 政府のプログラムの中には、個別企業に対して各種の地域支援センターの広いネットワークを通じて、彼らの負荷を軽くすることを計画しているものもある。その中には取引調整センター(Trade Adjustment Center−TAACs)の提供するサービスや、技術領域拡大パートナーシップ(Manufacturing Extension Program−MEP)の全米ネットワーク、中小企業発展センター(SBDCs)などのほか、連邦および州政府が各地域の指導者と連携して活動するための連邦政府および各地域のオフィスがあって利用することができるようになっている。

3.幾つかの外国金型産業の状況

 (1)北米

  @ カナダ

 カナダのTDMの製品は、ほとんど米国の自動車産業に輸出されている。金型について米国はカナダの最大の貿易相手国であり、貿易額は(輸出入合計)はその他すべての国を合計した金額をはるかに上回る。

 海外に本拠を置く自動車メーカーは、北米への投資を増大しつつあり、それらの海外工場は金型を自国に発注する傾向がある。北米の工場での自動車生産のシェアが上がるにつれて、カナダの金型企業はこれら新しい北米の自動車工場からの受注競争にうち勝たない限り、需要が減少するリスクに直面している。

 カナダドルの米ドルに対する交換比率は、1997年から2001年の期間に低下した。その結果、カナダのTDMメーカーは米国での販売競争に優位に立つことになった。米国の産業についてのある報告によれば、現状の為替レートではカナダで作られたTDMは同等レベルの米国の製品より40%安くできるという。

 これに対し、カナダの業界の資料によれば、カナダで作られるTDMは米国のTDMとほぼ同じ価格レベルであるとしている。

 カナダの業界の資料によれば、モールド型の生産コストは、材料と資金コストの点では米国とほとんど同様であるとしている。これらの資料に従えば、カナダのモールド型メーカーは材料と設備を米ドル基準で購入しており、材料コストに関する限り何ら有利なことはないという。しかしながら、労働コストは、カナダ/米国の為替レートの影響を受ける。カナダドルが米ドルに対し低い現在、カナダ側の資料によるとカナダのモールド型メーカーの、全体のコストについての優位性は10%以下であるとしている。

  A メキシコ

 メキシコ土着のTDM工場は数が少なく、かつ小規模である。技術能力と生産能力に限りがあるので、メキシコは米国、その他のTDMメーカーが、それぞれのユーザーのメキシコ進出にあたってメキシコでのTDMの供給を求める動きに追従して展開しているにもかかわらず、国内需要のほとんどを輸入に依存している。

 熟練度の高いTDMメーカーが不足し、機械加工能力に限界があるため、メキシコのTDMメーカーは比較的簡単な型をつくり、メンテナンスを行ない、改造したりすることに従事している。TDM業界の業績も成長性も、相対的に高い賃率、電力コスト、ならびに資金コストの高さ、およびその調達の自由度が少ないという悪条件によって限られたものでしかない。さらに、メキシコの需要業界の中には生産拠点を海外、とくに中国と東南アジアに移すという動きが見られる。

 (2)アジア

  @ 日本

 日本のTDMメーカーは、アメリカの企業と多くの点で同じような苦しみを味わっている。すなわち国内市場の縮小、供給能力の過剰、アジアのよりコストの安いメーカーとの競合の増加、そして厳しいコストと納期に対する要求などである。さらに、海外での教育訓練プログラムの進展、TDMの設計、データや生産技術の海外メーカーへの流出、などを通じての技術移転が国内メーカーの崩壊をもたらし、海外の金型メーカーが能力を拡大し国内メーカーに対する競争力を強めることを助けることと待つことになったのである。

 これに加えて、業界は小さいメーカーによって占められているので、グローバルな市場で競争するのに必要な財務的な基盤とマーケティングの知識を持ち合わせていないことが多い。

 弱くはなったが今なお続いている日本の産業の強さは、系列形の構造がいまなお残り、国内では下請け階層システムが維持されていて、国内のTDMメーカーと日本のOEMおよびその海外工場との間にこれがまだ続いていることである。さらに日本のメーカーは,ニッチ市場をもとめて特化戦略をとり、効率よく仕事を確保して競争力を強めている。

  A中国

 この大きな、成長しつつある産業は金額で見て日本とドイツにつぐ第三の金型生産国であり、数量では日本に次ぐ二番目の国であるとみなされる。

 TDM産業のほぼ70%は兼業メーカーで金型とパーツの生産を共に行っている。他の主要なTDMの生産国と異なり、中国には数多くの海外企業の投資によるTDMメーカーがある。海外投資企業は、多くの場合中国に進出した彼らの顧客に従って進出した部品と金型のサプライヤーが発展したものが多い。

 中国の強みは低コスト、十分に教育を受けた労働力、そして大きな成長を続ける国内および国際的な需要産業の生産基地となっていることである。その弱みは高品質のものができないこと、金型設計における創造性にかけていること、輸入資材の高コストそして国内の購入品の低品質である。現在、中国はローエンドおよび中級の精度と複雑さの、低コストのTDMを生産するのに困難しているように思われる。

  B 香港

 香港のTDM産業は,1990年代中ごろ2000社を数えたピーク時から,現在の企業数50社へと劇的に縮小した。業界の多くの企業は中国のローコストを求めて製造拠点を移転した。従って香港のツーリング産業は中国本土のツーリングその他の製造業者と高度に複合化し,また、それに依存している。中国への近さが西欧形のビジネスインフラと結びつき、香港のTDMメーカーが中国における生産と近代的なビジネススタイルを結び合わせて,グローバルなマーケットへの通路を作ることを可能にしているのである。香港のツーリングメーカは、中程度および高精度のTDMを短納期で生産することができる。

  C 台湾

 現在の台湾のTDMメーカーの生産および設計能力は,主に1960年代,および1970年代に台湾に進出した日本企業による技術移転と,台湾の金型工を教育したことがベースとなっている。このような教育訓練によって,台湾のTDM産業は簡単な製品から中級精度の,より複雑なTDMの生産へ急速な進歩を遂げた。台湾のメーカーは短いリードタイムと、価格競争力があることで有名である。

 将来については,業界は高精度のTDMに焦点を絞り、アジア地域での金型産業の設計およびマネージメントセンターとしての専門知識を構築しようと計画している。

 数多くの台湾企業は中国で生産活動を行っている。中国での生産と,台湾での設計および経営機能を結びつけることによって,TDMメーカーは主要な工程をコントロールしつつ低廉な賃率のメリットを享受しているのである。台湾企業は、また伝え聞くところではコンピュータライゼーションと国際的なセールスとマーケティングに強いといわれる。同時に,数多くの製造業が台湾から中国のような低コストの地域に移転することは,国内でTDMの製造する企業に大きな打撃を与えているという。

 (3)ヨーロッパ連合(EU)

 ひとつの地域として、EUは世界の中でも最大のTDMの生産者であると同時に需要家として位置付けられると思われるが,その構造としてはそれぞれのEUのメンバー国に相対的に少数のメーカーで成り立っている。EUの中では二つのTDM産業が目立っている。すなわちドイツとポルトガルである。
古くからのTDM産業国に影響を与えている問題は,上昇しつづける労働コストと、EUの需要産業がローコストの海外の生産拠点と新しい市場へ移転することである。EUの需要産業はこれまで生産をスペイン,東欧,アジアへ移転してきた。コストが高いEUのツーリングメーカーは、より低い労働コストを求めてスペイン,ポルトガル、ついでチェッコ共和国、ポーランド、ハンガリーなどの東欧諸国への直接投資に転換しつつあるのが現状である。

  @ ドイツ

 ドイツのTDMメーカーはEUの中では最大の輸出国であり,又輸入国として位置付けられ,また高精度,高精度のTDMの世界のリーダーである。ドイツは、さらに世界の中で最大のツーリング生産国のひとつである。
高い労働賃金と,労働に関する厳しい法規のため,ドイツのTDMメーカーは高精度かつ高機能のTDMに焦点を絞ってきた。この点では,ドイツのツーリング産業は伝統的に強いクラフトマンシップと、強固な見習い工教育プログラムおよび広範なTDMについての研究開発の努力によって得るところが大きい。

  A ポルトガル

 ポルトガルは小国であるにもかかわらず、産業用モールド型の世界の大きな輸出国のひとつとして登場した。2001年には,プレス型の生産はごく限定的なものに過ぎないのにもかかわらず,ポルトガルはダイ、およびモールドの世界第8位の輸出国であり,輸出先は70ケ国以上に及ぶ。

 ポルトガルのTDM産業の輸出の成功と,最新のコンピュータ技術の採用が,TDM産業が依存することが出来る国内の産業基盤が小さいにもかかわらず,この国に起こったのである。1986年EUに加入以来,ポルトガルは共同市場の顧客へのサービスに専念してきた。ポルトガルのモールド型の米国への輸出の占める比率は、1997年の65%から2001年には11%減少した。

4.米国と外国の競争力比較

 米国TDMメーカーは、コミッションの質問書への回答で、低価格の輸入品による競争を彼らの関心事のトップとしてあげている。二番目に関心の高いことは米国の需要産業が生産拠点を海外へ移転することであった。次いで重要度の順に,高い米国の労働コスト,健康保険のコスト,および保険のコストをあげている。

 コミッションの出したTDM生産者への質問書に対する答えの中で、競争の最大の要因として彼らが指摘したのは価格である。コミッションの質問書への購買側からの回答は,外国のメーカーは通常価格の点で相当の開きがあるとしている。米国のメーカーが次いで最も重要な競争上のファクターは納期と,製品の品質であるとしている。しかしながら,米国の購買者側は価格以外に,米国と外国製品の間に重要な差異はない、としている。

 過去5年の間に、競争の激しい市場の状況は国内の消費財メーカーに生産のすべての局面での合理化を迫った。その中にはTDMの調達も含まれ,ツーリングメーカーに対する価格引き下げの要求となって現れた。このプレッシャーは特に自動車,家電製品,電動工具,家庭用品,およびエレクトロニクス業界で使われるモールド型に特に強かった。

 米国製と輸入されるTDMとの価格差は非常に大きい。多くの米国のTDMメーカーは中国と台湾からの輸入品が極端に低く,米国のTDMメーカーの見積もりに比べ30−75%低いとしている。コミッションの質問書に対する回答の中で,米国の購買者は中国と台湾の見積価格は相当低いが,米国のメーカーの指摘するほど低くはない、としている。かなり低い見積もりを提示する国としては,韓国,その他のアジアと東欧の国々が挙げられる。

 ツーリング産業での技術進歩は大いに生産性と競争力を向上させ,他方では生産能力を拡大させるとともに、伝統的に米国の強みであった高度熟練技能への依存の必要度を低下させた。進歩したTDMの生産技術は世界各国で利用可能であるから、生産性の向上は在来の工業先進国と新興工業国とに同時に起こっている。

 価格は主に生産コストの関数であるから,米国と外国のTDMメーカーはたえず生産コストを最小にするべく努力する。この産業でかなりの設備投資が必要であるにかかわらず、生産コストの中で米国のメーカーにとって最大の構成要因であり,世界中のメーカーにとっても大きな要因は労働コストである。

 労働コストの点では,米国のTDM産業は中国,ポルトガル,香港,台湾,韓国と比べて著しく不利である。金型工や型設計者の時間当たり賃金は,中国でアメリカの12分の1,台湾で3分の1である。

 多くの米国のTDMメーカーの工場管理費は、特定の外国の国々の競争相手に比べて高い。このことはある程度景気が悪いことと,外国の激しい競争によって設備をフル稼働させられないことによっている。多くの中国の工場は1日24時間,1週7日稼動し,完全に設備を稼動させている。材料コストの点では,米国も多くの外国TDMメーカーもしばしば同じ特定の材料,たとえばある種の型鋼やその他の部品を特定の世界中で営業しているサプライヤーから購入し,価格はおおむね同じと信じられている。しかしながら、もっと広く調達可能な鋼については異なった国では相当に価格が異なることもありうる。この場合購入比率の差が、TDMメーカー間の材料コストの差になって現れる可能性はある。

 米国TDMメーカーの使用する工具鋼の大部分は米国政府が2002年に発表した追加課税から除外されているが,モールドおよびダイに使われるステインレスの棒材およびロッド材を含む特定の鋼製品は関税を払わなければならない。あるTDM産業の情報ソースによれば,関税対象の鋼の価格は現在米国に在庫があるので上がっていないというが、モールドメーカーの中には鋼のコストの上昇によって痛手を受けていると報告する企業もある。

 外国のTDM産業への関与は,ほとんど限定的である。中国政府は海外のTDM業者の投資を奨励するために税についてインセンティブを与えるほか,TDM生産機械を含む機械類に輸入税の免除を与えている。これらのインセンティブは外国の製造業の投資を奨励するためのより大きな政策のパッケージの一部である。

 輸入関税については、TDMの取引はNAFTAの中では無税である。その他の場合、TDMについては米国では多くの場合無税であるが、プレス型で2.9%から3.8%の従価税、モールド型については0から3.8%の従価税が徴収される。米国同様、EUの輸入関税も比較的低い(0から5%の従価税)、しかしながら、中国の輸入関税(0から19%の従価税)と、台湾(0から11.5%の従価税)は総体的に高い。

 外国通貨に対し強い米ドルは、グローバルなツーリングの市場ではマイナスの要因となって影響を与えている。コミッションの質問書に回答を寄せた米国のTDMメーカーは、米ドルの強い為替レートによって外国の市場での受注の可能性はごく限られたものになる、としている。

5.近い将来業界が直面する課題と潜在的な問題点

 米国のTDM産業が直面している課題は、
  (1) 最近の米国経済の下降と回復の遅いこと、その結果として産業界の生産活動が大幅に遅れ、そうでなければ
     金型需要が起こってくる筈であるのにその兆しがない
  (2) 米国の需要産業が生産拠点を海外に移転していることからくる国内市場の収縮
  (3) 縮小した国内需要と新技術によって引き起こされた過剰設備
  (4) 一層の価格引き下げと、より付加価値の高いサービスをもとめる顧客の要求 
  (5) 一層激化する海外からの競争
  (6) コストの上昇、とりわけ労働関連のコスト
 である。

 今後三年間、米国TDMメーカーが直面すると思われる課題は何か、というコミッションからの質問書に対し、多くの回答は"生き残り"を最優先課題としてあげていた。米国の金型業者はこれまでしばしば現在の経済環境の結果利益率は大幅に落ち込み、キャッシュフローの悪化が問題になることが多くなった、と言っていた。したがって、新鋭設備の導入、及び/あるいは競争力を維持するために必要と思われる教育訓練のための資金手当ても一層難しくなっている。

 近い将来、相当な数のメーカーの廃業が起こるであろう。米国の業界の代表者たちは現在の過剰設備は約25−30%と推定している。ある業界のリーダーは、2003−2005年には北米の自動車メーカーが多数の新車を開発する、という予測があるにもかかわらず、米国のTDMメーカーの数は50%減少すると予測している。

 米国のTDM産業の特徴も変化するだろう、なぜなら小規模の、しばしば同族企業であることが多いが、企業が廃業し、より大規模(売上高及び従業員数からみて)の企業の数が増えるからである。自動車関連のTDM市場では、企業統合が増加する見込みで、その結果今より数の少ない、そして規模の大きい企業がTDMのすべてのサービスを行うようになるだろう。

 コミッションの質問書にこたえて、米国のTDMメーカーの競争力を向上させるための提案がTDMの業界組織、米国のメーカー、ならびに購買責任者からなされている。

 @米国のTDMの業界組織は、マーケティングと技術協力などの領域で業界全体を連ねたコンソーシアムにより、世界
   第一級のTDM工場のモデルをつくり、グローバルな経営及び技術能力のベンチマークとする。

 A国のTDMの購買責任者は、取引上での改善策に絞って、たとえば新鋭機械への投資、リードタイムの短縮、もっと
   付加価値のあるサービスをすること等を提言している。

 B米国のTDMメーカーの中には、現在の米国の法律、条令を変更すること、たとえば新鋭機械を購入することが出来
   るよう投資減税を行い、TDM生産に使われる機械の稼動期間の短縮、また高価な機械やソフトウエアを導入しやす
   くするための償却についての税制上の配慮を求めているのもある。

 C健康保険については、TDMメーカーの多くが関心を持っており、業界団体の責任者によれば工業会が団体保険を
   契約することが出来るようになればこの問題に関心のあるすべての会員を満足させられるとのことである。

 米国TDM産業の当面する課題に対し、可能性のある対策は、おそらく他の国のビジネスのやり方と、業界をずっと調査してきた団体組織の下記の勧告の中に見出されよう。

 生産の都合とコストの制約の許す範囲で、あるいはTDMメーカーの集結している地域で、特定の精密機械加工をツーリングの生産に集中していない下請け企業に委託することは実行可能だろう。しかし、TDMメーカーの中には現在の経営環境では使われていない余力がある分野で、企業が設備能力を削減しない限り、下請けの活用を制限することになる、という意見もある。日本と台湾では下請けはリードタイム短縮のためだけではなく、不況のときに過剰設備を持ったり、従業員を解雇しないためのバッファーとして活用している。

 規模の大きい外国の競合メーカーの力に対抗するために、材料や切削工具、切削油などの調達、あるいは機械についても共同購入グループの可能性も検討してしかるべきである。このような購入のグループ化は精密機械加工産業のような関連業種も含む場合もある。

 外国のTDMメーカーの中には、設計に要する時間を稼ぐために、設計事務所を幾つかの国、あるいは大陸(中国)に置いている例がある。この作業時間の拡張を時間帯の違う地域に設けることを見習えば、リードタイムを短縮することが出来る。

 外国のTDM産業、あるいはそれぞれの政府はTDM産業の直面する問題、あるいはチャンスを認識しており、多くの場合産業を前進させるための計画を実行している。米国のTDM産業が業界ぐるみで、且つ企業レベルでの競争力を改善するための企業心をどこまで発揮できるか、によって米国TDM産業の展望と将来の競争能力が決まってくるのである。無数の外国のTDM産業も政府も同時並行的に同じ努力をしている事を忘れてはならない。

 
 

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