「特別記事:中国型(もの)づくり事情」
=華南・華東の金型企業を見て=
 
(有)アイ・ディ・オー・デジタル出版 井戸 潔

1.金型工業会の中国金型調査団に参加

 中国には@華東(長江)デルタ地帯、A華南(珠江)デルタ、B福建省、C山東省、D北京・天津、E東北3省(遼寧・吉林・黒龍江省)という6つの経済発展地域があると言われている(大前研一著/チャイナインパクト)。この発展する地域の中で今一番ホットな所が上海やその近郊で形成される長江デルタと香港・深せん・東莞・広州の珠江デルタである。
 今年3月3日から9日まで、経済産業省の支援により、日本金型工業会の「中国金型調査団」が派遣された。このチームは@日系金型ユーザー班、Aプレス班、Bプラスチック班の三つのチームに別れ、金型専業者の目線で中国の天津・上海・寧波地区の金型産業の動向を視察した。
 今回の金型工業会の調査団は、天津ではユーザー班が日系自動車2社、プレス班が日系プレス金型1社、中国系プレス金型2社を訪問した後、すぐ両班は上海に入り、プレス班は中国系金型2社と無錫の1社、さらに日系のスイッチ・ソレノイドを製造する企業。ユーザー班は電子・電気系のユーザーを訪問。
 プラスチック班はプラスチック金型の一大集積地とされる余姚や寧波を訪問し、中国での金型調達の現状や課題、展望について調査を行った。この調査報告書は「平成13年度総合開発計画調査事業―産業政策支援調査:中国金型産業の実態調査―」としてまとめられた。
 この調査団の一員として参加の機会を得て、中国金型産業現状や個別に昨年1年間、上海地区(長江デルタ:華東)、深?、東莞(珠江デルタ:華南)の金型メーカー等を取材を通して見えてきたのは、前面に出てきたのは台湾の金型メーカーや中国ローカルの金型メーカーが、「世界の工場」として浮上してきた外資系機械産業や電子・電気産業を支え始めており、更に韓国金型企業もそのチャンスをつかもうとしていることであった。
 金型産業がこれまで着実に日本で根付き、世界をリードするまでに発展しながら、なぜ21世紀初頭のグローバルの時代に、遅れを取り始めたのかという疑問を抱きながら、中国の発展する最前線の華南と華東にある金型企業のその現況の一端を報告したい。

2.華南・華東とは

2.1 華南地域

(1)華南地域の特徴

 華南は珠江デルタ地帯といわれており、IT関連部品生産では世界的な一大基地となっている。広州、深セン、珠海、東莞、中山、恵州あたりを中心として、香港から200km圏内を指している。ここには5万社の日系、欧米系、香港・台湾系企業の電子・電気部品加工メーカーが集結しており、そのほとんどがパソコン、プリンタ、複写機、家電部品の生産をしている。中でもプリンタ、コピー機、ファクシミリ、カメラは世界の過半数を超えているという状況であり、最近ではノキアやフィリップスが携帯電話なども生産している。特に東莞市は、いわゆる「台湾村」といわれており世界の電子部品産業の集積基地になっている。
 この華南は広東省が中心になっているが、全国のGDPの約1割を占め、輸出総額の約4割、直接投資が約3割を占めている。その中で、珠江デルタ地帯は広東省人口の約4割を占めている。GDPは約4割、工業生産が9割でといわれている。
広東省の工業生産は、1位が電子・通信産業、2位が電子機器というように、電子産業中心の地域となっており、中国最大の輸出基地に発展しているほどである。

(2)なぜ華南は発展したか

@ 香港隣接の深せん(広東省)へ移動
 広東省のこのような伸展の口火を切った要因は何か?
 今から20年前、香港では人手不足と賃金高騰によって国際競争力が低下してきたことから、安い労働力を求めて、言葉の問題や地の利、その他の条件も揃っている深センに進出した。さらに機械設備、材料をもち込んで、深せんで作り、その製品を香港から輸出するという委託加工貿易方式を編み出し大きく発展してきた。
 ここでは、一般的に香港が部品調達や生産管理をし、広東省は安いコスト、安い労働力を提供するという分業体制の形を取っている。また、輸送問題を含め、陸、海、空路を活用して香港から広東省を3時間以内で往復できるという利点もある。香港は、中国への玄関口であり、世界貿易への窓口と言う機能を十分に果たしてきた。

A 続いて進出してきた台湾
 10年遅れて、1990年以降、台湾勢が香港を拠点にして広東省に入ってきた。やはり香港と同じように、人手不足と賃金の高騰から、広東省に拠点を移してきたが、特に台湾政府が中国投資を解禁したことから、台湾勢は広東省、江蘇省、上海、福建省と、台湾海峡の沿海の諸都市へ集中的に進出した。台湾勢は中小企業が中心で、投資額も少なかったが、華僑のネットワークができ上がっており、それをそのまま利用しながら、投資額は短期で回収するという特徴的な行動パターンを示している。
 初期の生産はマウスやキーボードなどの周辺機器から始め、マザーボード、CPUのパソコン中枢部品からデスクトップパソコンへ本格化してきた。さらに最近ではノートパソコンの生産も手がけおり、今後ともさらに伸びていくだろう。

B IT生産基地・東莞市
 広東省の中で今、一番注目されつつあるのが、IT関連産業の中心地としての東莞市である。香港から車で2時間、深せんから1時間、広州から1時間と非常にアクセスが良い。開放前はバナナやライチの産地としての農村地帯だったが、今や年20%の成長率を示し、輸出は中国全体の7.7%を占め、1位の深せん、2位の上海に次ぐ4年連続全国3位という実績を示している。ちなみに輸出の約35%はアメリカ向けとなっている。
東莞市発表のデータによれば、同市に進出している外資は約1万4,500社あり、そのうち香港勢が約9,600社、台湾勢は約4,000社で日本はわずか300社ほどである。
 主要産業はパソコンや携帯電話などのIT関連部品の生産であり、特にSPS、マウス、キーボード、ケース、ディスプレイ、CD-ROMドライブ、スキャナーなどは世界のトップシェアを占めている。なぜここが注目されたかは、やはり安い労働力であった。東莞市の人口は現在約650万人、地元は150万人しかいない。あとの500万人は外から働きにきている人たちである。
18〜21歳の女子労働者は3年で故郷に帰らなければならないが、そういう出稼ぎ労働者が多くを占めている。そういう若い人たちは3.0とか2.0という抜群の視力をもち、手先も器用であり、さらに残業は率先して希望している。工場内に設けられた寮は1室6〜8人の共同生活で、24時間3直勤務を実施できる体制にある。
 東莞市はこのような中国でも有利な状況を発展させる人材の確保とR&Dの拠点として今、「東莞中国著明大学科技城」を建設中である。研究開発センターを誘致したり、アメリカなど海外に出ている優秀な人たちを呼び戻したり、ハイテクを支える人材を全国から集めたりして、東莞市の将来的な姿を描いた計画が進んでいるようである。

2.2 華東地域

(1)華東地域の特徴

 華東地域は、上海を中心に江蘇省、浙江省地帯を総称した長江デルタ地帯のことである。特に上海は深せんや東莞市と異なり、昔から経済商工都市として有名である。今の中央政府には上海出身者が多く、そういう意味で、上海の育成には中央政府の強力なバックアップがあることから、今以上に長江デルタは発展していくと言われている。
また、上海は教育レベルも非常に高く、中国の中でもこの地は一番高い購買力をもっている。
 さらに国の内外に通じる交通の要衝にもなっており、90年からの浦東の開発が最近終わり、東京都と同じくらいの地域の中に高度な産業を誘致しようということで、金融、産業、各研究施設などがここに集中している。東京の町並みを越えていると、以前に上海を訪ねた人が久しぶりに見る情況に驚きを隠せない。中国の中で上海の変貌はそれほど劇的な変化を呈している。台湾のある金型メーカーの社長が筆者に"3ヶ月来ないと上海の変化には追いつかないよ!"と頻繁に来るようにと勧めているくらいである。
(2)内需指向型産業地
 この地区に進出してくる外資は、単なる輸出狙いだけではなく、内需志向型を狙った形の進出が特徴であり、世界の名だたる大手企業はほとんど進出してきている。自動車、電子機器、通信、食品、EMSつまり組立型・完成品型製造業のオンパレードである。いわゆる付加価値産業型で、深せんや東莞市、広州とは異なった進出である。シーメンスやコカコーラ、リコー、日立、NEC、GMといった日欧米の大手ユーザー企業が出てきている。 蘇州には、台湾系のパソコンメーカーなどの大手企業がどんどん出てきている。

3.華南・華東の金型企業

(写真1) プラスチックギアの検査

(1)華南の金型企業

 華南は台湾企業が世界に供給する電子・電気製品、部品の大集積地である。この地域の日系・台湾系・ローカルの金型、プラスチック成形加工企業を昨年の11月に駆け足で回ってみた。

@ オービー工業(日系)
 訪問した次の日に近くに引っ越しするので、いつもは24時間体制3直だったが、5時に終わり準備に入っていた。3000uの4階建で、3階までを使い、4階は当面、材料置き場にするということだった。
 ユーザーはフナイ、ブラザー、オムロン、エプソン、京セラ等殆どが日系ユーザーだった。
 同社の製品は精密歯車の成型がメイン。金型は精密金型で日本から輸入(親会社:父親の会社)するが、メンテナンスはこの工場でしている。本社は香港にある。以前は香港で成型屋をおこなっていたが、1996年に移ってきた。以来仕事量は増え続けていると言う。社員は181名、日本人は2名。日本語が出来る社員は数名いる(写真1)

(写真2)  成形機ライン

A 永浪
 この会社は、日本で父親の会社がつぶれた後、香港で働いているときに取引先にいた人と一緒に東莞市に出て、1994年設立、現在、100台あるプラスチック成型機は、ほとんど香港・台湾製であった。これはやはりコストが安いのや日本の成型機メーカーは商社を通して入れるため、マージン分だけが高くなるということもあった(写真2)
 ユーザーは松下電器産業、松下電工、ミノルタ、日本航空電子、リコー等日系企業。ここも工場拡張のため、土地を手当てし来年の秋には完成させる予定。従業員は450人。金型は自社製作。3DのCAD(PRO-E)やCAMで設計。
社長の村松氏は、香港でペーパーカンパニーを'94年に10HK$で買い取る。会社名はそのまま。社員の8割は女子従業員で平均22歳から23歳、3年で故郷に帰る。
 将来の展望としては、こちらに出てきている台湾や香港企業との競争で日系企業が勝ち残ってもらいたいが、2年から3年で中国ローカル企業が追いかけてくる事が見えているので、ローカルとも「共存共栄」で行きたいという。それはこの中国でビジネスをやると決めているので、地場企業ともWIN-WINの関係を築きたいためである。

B 三井高科技電子(東莞)
 三井高科技電子(東莞)は、九州の精密金型メーカーであり、半導体製造にも乗り出している三井ハイテックの子会社である。1994年に東莞市でリードフレーム、モータコア,IC製品、金型部品。社員90名。同社はほとんど本社から金型を持ってきているが、精密金型のメンテを手がけている。
 「世界の標準価格」に中国がなっていくので、これからの競争はこの地で行われる事は必至である。ここ東莞工場のユーザーはSTマイクロエレクトロニクス、ソニー,松下電器、ミツミ、三洋電機等。
同社は中国関連だけでも,天津、上海、東莞、香港、更に台湾に拠点をおいて生産・営業活動を展開しており、中国にどんどん欧米系や日系外資が増えることから受注増に結びつくことが予想されそうである。

C 台麗通塑膠模具
 台麗通塑膠模具は、台湾の小京都といわれる台南市で生まれたプラスチック金型メーカー。
 社長の呉さんは金型技術者として20数年の大ベテランである。1995年にこの東莞市に出てきて、小物金型から大物金型をこなす。ユーザーは台湾系80%、海外20%、金型は家具、家電(白物)、電子部品で成形メーカーから受注している。社員は280人、製造部門は180人、残りは品質管理、事務部門関係。台湾人は6名(設計、現場統括、営業、事務)。同社の特徴は価格と対応能力の速さという(呉社長)。
 この企業の特徴は、大型金型も製作できる設備を持っていることと、トライも大型成型機で出来るという事から競争力があり、信用力も抜群(呉社長)という。上海にも同名のプラスチック金型メーカーを設立。現在の東莞工場近くに新しい工場を増設するため、土地の手当ては済んでいると言うことである。

D 忠信制模
 中国広東省のトップクラスの金型メーカーである。年間金型生産量4000型,従業員数1500人,金型はプラスチック/ダイキャスト金型の設計・製作を中心に製品設計,3Dデーター作成、試作品の製造までを手がけている。完全なローカル企業であるが、日本人の技術者や営業関係が6名(技術:4名、営業:1名、事務:1名)いる。  
 この金型メーカーの特徴は、社長がアメリカの大学で機械工学を学び、工場システムは一般の中国ローカル金型メーカーとは異なる手法を取っていることである。例えば、各工程では、穴明けなら穴明け専門の仕事を、フライスならフライスだけの仕事を単能工として単純化した金型部品製造システムで、最終工程の組立ては熟練技術者が行うという、まるで工場内が日本で見られる大田区の工場群を1社内に取り組んだ工程管理を実施した金型作りが特徴。
 忠信制模(ALTRUST)は、グループ企業22社12,000人の香港投資集団会社の1つで、東京新宿にも日本支社を構えている。
 東莞市の横瀝には2つの工場があり、今回、訪問したのは新城工業区にある新工場。30,000uの工場には1,299名の従業員が年間4000型を製作する。
 金型の種類は、プラスチック金型の設計製作、プラスチック部品の製造、ダイキャスト金型の設計製作、ダイキャスト部品の製造、製品設計,3D,DATA作成、試作品の製造。
 同社は製品設計・試作部門を持ち、RP、削り出し、試作型により、試作部品を提供できるほか、PRO-E5台により、ソリッドモデル化にも対応できる能力を持つ。更に3次元形状測定器によりデザインモックからDATA変換も可能。
金型部門は1300人近い金型技術者が、50tから1250tという幅広い金型製作能力を持っており、16台のトライ機で量産性の確認も出来る。設計はRP-E20台が稼働している。
 日本支社を統括するのは、1昨年までアイケイツールインターナショナルにいた北沢博之代表。日本支社でも国内ネットワークを組み日系自動車、電機関連の企業にも素早く対応できる体制を組んでいる。
 設備の主な物を見ると、CAD/CAMはPRP-E:20台、CATIA・IDEAS・UG・Parafrom・AliasD,S Mold Flow。金型加工機械はMC23台、放電加工機62台、ワイヤー放電加工機12台、汎用フライス盤155台、研削盤35台、彫刻機58台等々、熱処理設備、トライ機ダイキャスト4台、成型機12台
 人員構成は製品設計・試作:110名、営業・営業技術:73名、CAD/CAM:108名、加工・組立て:759名、管理:177名、検査:24名、試作成型:26名、熱処理・機械保守:22名の内訳となっている。
 同社は中国国内での幅広いネットワークを構築しており、巨大な中国のどの地域での受注も可能な体制を敷いている。このため、ユーザーが心配する金型メンテナンスもネットワークによりサービスが出来る。
 また、日本のユーザーが中国に出向かなくとも日本支社で出来ることや中国でのトラブルも現地駐在の日本人スタッフが対応する。さらに中国ローカル金型メーカーであるため、金型品質の懸念があるが、金型の構成や品質のチェック、TRY後のサンプル確認も日本人スタッフが行う。同社はISOも取得しており品質管理は充分に実施している。 納期についても社長がアメリカで機械工学を修めているだけに、欧米式管理手法を徹底しており、インターネットによる情報管理で日本支社とのやりとりをスムーズに出来るという。

E 日技城製造廠(テクノセンター)
 この企業は今、「中小企業の駆け込み寺」としてホットな話題を呼んでいる。
 代表者石井次郎氏は1年間に深せんの訪れるお客さんとの名刺交換が3000枚を越えるという。  
 ここは中国へ何も解らずに来ても安心できる「経営基盤」を提供するという極めて異色の存在で注目され、「世界の工場」に参入する中小企業ばかりでなく、大手企業もお世話になっている。
 話を聞いていると眉唾物語を聞くようで、一瞬、その話は本当?と疑いたくなるような説明に何度も念を押さないと世間の常識と少し離れているように思われる。
 ここは中国に進出しようという企業が学習と実地体験を1週間でも研修させて貰えばその内容理解できる。是非、お勧めの場所である。
 石井氏はWT0に加盟したから中国がすぐ変わると余り期待してはいけない。すぐに開放されないと見た方がよいと忠告する。ただし、深せんの加工基地でのメリットは大きいので日本の中小企業は中国に出ている日系企業の部品加工業として活用することを進めている。以下は石井氏とのお話をまとめたメモである。

★最初、華南には日本の企業が多く進出したが、今では台湾企業が後から出てきて、日本の20倍くらい多い企業  が出てきた。台湾はオーナー経営者が出ているので、決断が早く、登用された若手幹部も決定権を持っており、タイミング良い経営が行われている。日本は一々本社にお伺いを立てるためスピードの速い対応が出来ないので、中国の変化に着いてゆけないという。
★テクノセンターは今まで多くの中小企業を受け入れ、そこから大きくなった企業が卒業して新しい場所に移り経営を続けている。このセンターに入って初年度から黒字にならなかった企業は1社もないと石井氏はいう。
(写真3) 実装基板の部品組付け

★大手企業が調査に来るが、調査する人、契約する人、現地立ち上げの人と別々で一貫して最初から駐在する人が着いてこない。スタートがつまずくと取り返しが付かなくなる。
★テクノセンターには総勢6000人が働いている。石井氏の会社にも1500人がおり、高収益を上げている。ここには機械設備らしいものはほとんどなく中国全土から集まった女子労働者が主力。多品種・短納期・小ロット生産には、自動化機械は全く役に立たない。「表面実装機(SMT)」という1億円もするラインより、女子工員の活用により柔軟な製造ラインができあがる(写真3)
★銀行から金を借りないで、自分のポケットマネーでやるという気構えが必要。たとえば、あるプレスメーカーが800tプレス買うのに銀行から金を借り、自動車部品の加工をやりたいという相談があった。これを止めさせ、外注化し、日本にある消却済みの中古250トンプレス3台(中古機械は持ち込めないが、知恵を授ける)と6社の外注で生産を開始した。
★また、出る前の現地調査をするとき、成功している企業からアドバイスを受けること。そこに出ているところはいろいろな苦労や成功を教えてくれる。進出方法には独資・合弁・委託加工という3つがあり、石井氏の貸工場アパートに形態の異なる3つの会社が30社ほど入っているので、ここで効率の良い調査が出来る。
★テクノセンターでは新卒を入居している30数社が共同で中国全土から募集する。すると200人とか300人の応募の中から上位100人くらいを採用してテクノセンターの中で分け合うようにしている。大量に採るとなると大学でも学長自ら本腰を入れて協力してくれ、優秀は学生を採用できるチャンスが大きい。
★人民解放軍の経営する高校にも声を掛けている。大学並みに良い生徒が採用できる。しかも中卒並の給料で結構という。大卒1000元、人民解放軍高校生は440元。
★テクノセンターでは開設12年の中で1回の昇級もしていない。ただし昇格はありそれにより昇級する。昇格は4ヶ月に1回、降格は即日。2年で10倍の給料が取れるシステム。これまで2人がおり、1人は大卒、もう一人は学校も出てない貧しい家の出身。
★ 昇格はディスクローズされている。4ヶ月ミスがないと主任、班長と昇格する。学歴とは関係がない。中国は「お金」がすべて。それに対応した職場を作るには、徹底したマニュアルが求められる。年間30%、多い時は40%が転職するが、どんなに人が替わってもマニュアルが出来ていれば問題がない。

(2)華東の金型企業

@ 台湾系金型メーカー(崇泰企業)
 同社は1992年に台湾から深せんに金型・プレス加工のために、"来料加工方式(委託加工)"で進出、資本金1300万人民元、敷地面積20,000u、建物6,566uの規模でスタートした。従業員250人(プレス:200人、金型:50人内台湾幹部7人)、さらに1997年3月には金型工場を設立。同年8月には独資で上海にもプレス・金型工場を設立した。敷地面積2350u、従業員120人。
 同社の主要加工部品は、複写機、FAX、パソコン、エアコン、電話、スピーカー、モータ部品等のプレス部品。
 主なユーザーは、
<深せん> デンオン、ユニデン、村田、船井、コニカ、フォスター、加賀電器、ソニー、三協精機、ティアック等
<上海> シャープ、三愛司、黒田電器、辰美電機、古河電工等

A 日系金型メーカー(無錫晶瑜金型制作有限公司)
 同社の本社は滋賀県守山市にある鋳造用金型メーカーである。会社名は守山金型製作所といい、中国と縁が出来たのは、現会長の田中弘氏が長春にある第一汽車のシリンダーヘッドの金型を受けたことから。
その後、無錫市にあるガラス部品、ボイラー関係の設備を製作している「晶瑜集団公司」と合作。
1997年から「無錫晶瑜金型制作有限公司」を設立した。合作というのは補償金を相手に支払えば、こちらが側が全部経営権を握ることができる。経営者は4人おり過半数で決議される。ただし利益が上がっても上がらなくても補償金額は毎年払うシステムである。
 中国では現在現地日本企業と比べて金型費用は60%くらいで、日本と比べて30%から40%くらい。中国では偽物のCADソフトが出回っている。pro−Eは400円から500円で買える。UGは1,000円くらい。その代わり正規のソフトではないのでよくバグがでると言う。コピーであるため動かない時もある。オートCADでもやはり偽者があり、そういう設備の償却度から見れば対抗できないということである。
 現在の課題は、人に関しては定着率の問題があり、無錫は2年から3年でジョブホッピングしていく。中国ではどの企業でも一般的こういう状況である。
 こちらで働いている中国人は2年か3年たつと仕事に自信をつけて、よその会社が気になり移るようになる。同社は金型学校のようになっておりそのへんがつらいところである。だから条件さえよければ、明日にでも転職してしまうというドライな状況がある。
 また、資金の回収も大きな仕事である。日系企業との取引は安心できるが、ローカルになると物納がある。お金の代わりにエンジンをトラック1杯積んできて、金型代金の代わりにしてくれと言ってくる。あるいはトラック1台とか乗用車1台を金型代金の肩代わりに持って帰ってくることもある。
 中国人に回収のことを任せることができないので2人、3人と複数で仕事をやらせている。
 技術的なことについては研修もさせているので、そこそこはできる。いつもは工場長とか総経理に任せている。簡単なものは大体できるようになっている。リーダークラスでもまだ設計や鋳造法案は無理なので日本でこなしている。法案作りはユーザーでやってもらっている。日本でもユーザーから仕様書をもらっている。
 まだ中国の実力は10年ほど前の状況である。鋳物に関しても品質も良くなっているし軽量化で薄肉化の方案でカバーしていいものを作っている。まだこういう技術は中国にはない。例えば肉厚では3.5mmであるが、中国では5mmである。場合によっては6mmもある。このように高いレベルまでは到達していないが、そこそこの技術は確立している。だから3年もすれば日本の高い技術に追いついてくるとみている。また3次元測定器も導入している企業もでてきた。
 これからは中国ローカルの金型メーカーと対抗していくために、コストを中国企業並みに下げていく努力が求められている。中国は国が大きいのでアフタサービスの拠点を何カ所か持たないと営業力はつかないし、客先のニーズに対応にできない。金型メンテナンスをできるサービスセンターを中国全土に持ち、駐在員を置くことも必要になる。
 また日本国内にも目を向けて、中国生産のための営業活動をして安い中国金型を作って売ることも考えている。つまり中国で作った金型を日本に持ってきて3次元測定をして、同社が保証して日本のユーザーに販売をするというモデルも考えられる。
 中国で競争力をつけるためにも、単価の安いものは外注で、単価のとれるものは社内で加工している。つまり中国でも外注加工をうまく活用する方法がある。今はまだ20%くらいしか活用していない。引き物加工では、キャビティとか形状部は日本製のマシニングセンターで加工する。このように精度の高いものは日本製機械、低いものは台湾製あるいは中国製の機械を使用する。
 今、盛んに言われている「中国脅威論」は中国で生産活動をしていても実感する。中国では未来は明るい。中国のローカルではこぢんまりした金型企業が利益を得ているようである。

B 日系金型メーカー〔星光協和模具(昆山)有限公司〕
 同社はOA・AV機器、自動車・家電用プラスチック金型メーカーの葛ヲ和精機製作所とプラスチック成形メーカーのスターライト工業が合弁で1994年に設立した日系金型メーカーである。
金型は、
@ 高精密プラスチック金型の設計・製造・修理・販売
A 汎用プラスチック金型の設計・製造・修理    
販売。
 出資比率はスターライト工業が51%、協和精機製作所が49%で、董事長は葛ヲ和精機製作所の小暮正之社長が就任した。これから中国もどんどん精密金型が求められるし、また、メンテナンスも必要になるため、当面はスターライト工業の金型工場として中国現地で金型製作をしているが、かなり先を見て両社で投資を行っている。

4.中国の台頭に日本金型産業は?

 中国はどうなっているのかその現状を見るべく昨年、深セン、東莞、上海等を回ってきた。その中で素人なりに感じたことを以下にランダムに挙げてみる。

(1)日本国内の金型専業メーカーは1万社あるといわれているが、そのほとんどは海外に出ることは無理ではないかという印象であった。
 なぜかというと、ある程度の機械設備と人手を要する金型専業メーカーが、進出先の中国にも少なくとも2〜3名の人手はかけなければならないとすれば、小人数規模の金型企業では、日本の本体がおかしくなってしまう恐れが出てくる。ただし、射出成形やプレス加工などの成形加工をやっているところは可能性がある。それは、今、機械と金型をもっていけば、すぐに成形ができる、あるいはスタンピングができるという意味では、ビジネスは可能ではないか。現地の人の教育や資金力なども含め、金型専業では非常に難しい状況があり、単純にいってしまえば単独での進出は無理ではないかという判断である。

(2)それではどうすればいいのか。もし中国に進出するのであれば、台湾の金型屋さんとパートナーを組むという選択肢がある。それは、日本と台湾は相性がいいし、日本の素晴らしい技術力と、台湾の営業力がまとまれば、うまくいく可能性はあるのではないか。加えて、台湾がもつ独自の華僑ネットワークを活用する手もある。台湾と中国とは、言葉も文化も、生活習慣も共通性があり、そういう台湾の力を活用するのも1つの方法である。台湾の場合は日本を尻目に既に華南、華東へと、中国に率先して進出しているので、台湾の金型ビジネスは研究に値する。また別の意味での回答が見つかるのではないだろうか。

(3)それから、日本の金型メーカーで上場されている企業はほんのごく少数であり、基本的には大きくなれない。金型は一品料理であるという宿命があって、金型専業企業として成り立たせるのは非常に難しい。そういう意味で、伸びている企業は、成形分野まで手を伸ばしたり、あるいは他の業種と提携したりして企業規模を拡大するなど、金型をベースにして成長しているというのが特徴的な企業の姿である。

(4)中国においても、そういうことを研究している現地の経営者がおり、現にもう金型は儲からないから、金型をベースにして後工程で勝負するという考え方をしている若い経営者が出てきている。

(5)金型産業は、若い人たちが父親の後を継いでやろうというほどの魅力にかける。そういう魅力のないところに若い人は夢を持てない。日本の金型産業は非常に厳しい背景がある。
 しかし、金型がなくなるというわけではなくて、ASEANや中国において、まだビジネスチャンスはある。今後、金型のあたらしい経営モデルの構築は必要である。とにかく日本は、どこにも負けない金型技術をもっているので、そういった固有の財産を核に、互いに知恵を出し合って危機感を乗り越えていって欲しいものである。

(6)今、上海が世界各国から非常に注目されており、WTO加盟、2008年のオリンピック開催といった背景もあって今後、日・米・欧の世界のビッグビジネスによるデッドヒートが、この上海を舞台に展開されるのではないかと思う。


 垣間見た中国の金型産業であるが、確実に発展するだろういうことを感じている。いろいろな人との会話の中で、日本と中国とではまだ20年、30年の差があるといわれるが、その20年、30年の差が開いたまま今後ずっと続いていくと思ったら間違いで、5年、あるいは3年の期間で差は縮まってくると見るべきだという指摘する人は多い。
 外資企業もどんどん進出し、この外資企業からの金型発注は確実に増えている。しかも、より高品質が求められので、台湾系企業を先頭にどんどんコンピュータ化を進め、マシニングセンタやジググラインダなどの最新鋭の高精度加工設備も積極的に導入しているから、かなり高精度な金型加工が実現している。また、その後の肝心な仕上げはどうするかというと、日本の金型メーカーのOBたちが雇われて指導していたりして、技術レベルは着実に向上している。
 こういった状況の中で、中国の金型企業について大変驚いたことは、上海交通大学や北京大学など中国トップレベルの工学系の大学を卒業した人たちが、いとも易々と金型メーカーに入ってくるという事実である。特に金型設計部門は3次元CAD/CAMを活用して設計期間の短縮に取り組んでいる。しかも日本と比べると格段に安いソフトが手に入るから、コスト比較で日本はとても太刀打ちできないし、高学歴の若い人たちも育ってきているということで設計技術力は向上している。
 金型加工技術にしても、今は台湾製の工作機械が中心であるが、日本製もどんどん入ってきており、そういう背景のもとで、日本で考えている以上にスピードは速い。トップグループの金型メーカーは非常にパワー持っている。また、若い経営者も登場し、彼らは明確な金型経営モデルをもっている。日本の職人中心の金型企業と違う意味で今後、中国は展開していくのではないかという感じを受けた。


 

copyright© Information Digital Office Inc.