ベールを脱いだ中国"ハイアール"の金型工場
―世界の家電王国・中国のトップ企業―
(有)アイ・ディー・オー・デジタル出版
井 戸  潔
 
Kiyoshi Ido:代表取締役
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 平成15年10月12日、10時30分成田発の全日空機927便に、総勢21名の「中国ハイアールのモノづくり徹底探求の旅」と称する少々オーバーなタイトルを付けた視察団は、雨の成田を発ち、12時45分青島に到着した。ここは成田と同じように雨で、しかも猛烈に寒く風邪を引きそうな天気であった。
 われわれの青島"ハイアール訪問"の目的は、中国最大の家電メーカーに成長した企業を支えている「金型」の存在が気になったからである。
 それは、2002年1月早々に三洋電機がハイアールと対等に近い包括提携を発表した。その動機を語る井植会長が「これまで中国の製造業を過小評価してきた。中東ドバイに視察した所、日本製品を追い落とさんばかりの韓国製品に代わり、中国製品が幅を利かせていた。ハイアールが300人の営業部隊を引き連れて商売を展開。そこでハイアールを訪問して現場を回ったときに、金型工場を見ればその会社の製造力が分かる。その素晴らしさにびっくりした」(*1)という工場をぜひ見てみたいことから、知人の金型工場の課長にお願いして実現した。
 
 
1. 中国の改革・開放による政策大転換
 
 社会主義国中国が、資本主義と変わらない発想に転換した1979年の改革・開放以来すでに25年が経過した。今日の成長のドライブフォースは貪欲なまでの"外資導入政策"への移行。特に直接投資に対するインセンティブにより、まず1980年代に香港勢が、10年遅れて1990年代に台湾勢が大陸に上陸した。
 日本も(表1)のような曲折をへて中国に乗り込んできた。1992年にケ小平の南巡講話により改革・開放政策は一層の拡大を見て、外資の直接投資は増え続けたが、その反動として経済調整や金融引き締めが起こり、1994年からどんどん減少してゆくが、2000年から回復。第10次5カ年計画、2001年末のWTO加盟等21世初頭からの「中国投資ブーム」が起こり、世界を巻き込み始めた。
 世界の工場とも言われる中国に世界中から直接投資をし始めたが、進出各国のスタンスに大きな違いが出ている。
 日系企業の対中進出は、これまで為替の変動を見ながら台湾、韓国、ASEAN、ベトナム、そして中国等へのシフトをしてきた。それは低賃金による国際競争力の確保が大きな目的で生産移転が行われてきた。
 中国進出もまず人件費抑制、税制優遇等中国生産品の輸出目的のために生産拠点の確保があった。しかし、欧米各国の進出目的は最初から13億人市場のビジネスチャンス対する魅力であった。そのため、日本の投資の考え方と異なり、中国のWTO加盟による市場開放に戦略的な反応をしている。
 フォーチュン誌の世界500社による投資国の売上げベースでのランキングを見ると、香港、日本、米国、欧州、台湾、韓国の順番となっており、業種は@飲料・食品、A科学、B材料、C機械、D自動車、E電機・電子・通信、F流通等500社中、すでに400社近いビッグビジネスが進出していると言われている。
中国の外資導入による経済成長戦略は今の所、大成功を収めており外資同士のますます熾烈な競争が展開される。
 
 
2.家電生産王国「中国」
 
 中国の家電市場は、テレビ、DVDプレーヤー、携帯電話、ディスプレー、プログラム制御交換機、エアコン、コンテナ、光学部品、小型家電では数量、金額ともに世界トップを記録、その躍進のスピードは驚くべきものを感じる。
 かつて1980年代に世界の家電王国として躍り出た日本の家電業界が円高不況で大きなダメージを受け、90年代から国際競争力をなくし海外生産に移行、国内の空洞化が進み、その隙間をぬって、2000年に入ると急に中国の影が実像に変化してきた。
 中国躍進の原動力の秘密は、無尽蔵ともいわれる"安い労働力"。その安い労働力の質が良さ。更に13億人の市場の可能性。
 家電が急速に進展したのは、自動車のような2万点から3万点に及ぶ部品の摺り合せ方技術が不要で、既存のパッケージになった部品の組付け技術があれば生産できるという成熟した産業のため、今までタウンジャッケットを生産していた「格蘭仕(Galanz)」が、電機メーカーに転進して、今では電子レンジ市場を国内市場70%、世界の30〜40%のシエアを占める企業にのし上がってしまった。その急成長の鍵は市場価格の破壊と大量生産で利益を上げるという手法である。
 中国の家電生産は、
  @青島を中心とする山東省の海爾(Haier)、海信(HiSense)、澳柯瑪(Aucma)、小鴨(XiaoYa)
  A寧波を中心とする長江デルタ地域。ローエンド製品が集中しているが、上海が近くに控えているため、多国籍企業の多くが内陸市場を狙って進出している。
  B珠江デルタの順徳地域の家電集積地。3000社以上の家電企業があり、全国生産の15%のシエアを持っている。冷蔵庫・エアコン・電子レンジ・炊飯器・扇風機・食器消毒器・湯沸器などの生産を行い、美的(Midea)、科龍(Kelon)、格蘭仕(Galanz)、万家楽(Macro)、康宝(KangBao)、万和(Vanword)
以上の3地域が中国家電生産集積として有名である。(*2)
 
 
3."ハイアール(海爾)"提携劇の衝撃
 
(1)日系企業と提携進む
 中国最大の家電メーカーとなった"ハイアール"が、わが国でクローズアップされたのは、冒頭で触れた三洋電機との提携劇だった。そして、03年の8月にハイアールは日本の象徴的な街"銀座4丁目"に大きなネオン輝く広告塔を設置した。
 これまで日本の電機メーカーは中国と技術提携しながら、現地企業に設計から製造技術の提供をするほか、合弁による生産方式を取る事が主流だったが、三洋電機の場合はハイアール製品を日本で販売するための販売会社を設立することで、対等な提携で話題を呼んだ。むしろ、三洋電機の方が不利な立場ではないかという観測も見られた。
 続いて、松下電器が広東省恵州市にある国有企業のTCL集団と提携した。白物の家電のほかTV,パソコン、携帯電話などを手がける総合電機メーカー。
 日本企業の電機メーカーはほとんどASEAN(シンガポール・タイ・マレーシア・フィリピン等)で、白物家電を生産して、日本に持ち帰る方式が一般化した。この延長線上に中国があり、その中国の国内では、家電メーカー同士の激烈なシエア争いがおきており、価格競争、サービス競争、新製品開発競争の中で、中国に進出した日本の代表的な電機メーカーが振り落とされそうになりながら模索したのが、この提携劇となったようだ。これはオートバイのホンダが、中国のコピーメーカーと一緒に10万円を切る"Today"というスクータを開発して、日本に輸出したのと同じパターン。

(2)中国家電トップのハイアール(海爾集団公司)
 以下はハイアールの概要である。(写真1)
  1) 創 業:1984年
  2) 本 社:山東省青島市
  3) 資本金:約50億円
  4) 従業員:約3万人
  5) 売上高:2000年度=400億人民元([約6000億円])、利益=30億人民元([約450億円])。
2001年度=602億元(約72.7億ドル[約9000億円])、経常利益=42億元([約600億円])
  6) 家電製品の中国国内市場シエア:30%
・冷蔵庫31.2%、・エアコン25.8%、・洗濯機30.5%、いずれも首位。冷蔵庫では世界最大の生産量
  7) 貿易センター56ヶ所
  8) デザインセンター15ヶ所
  9) 工業パーク19ヶ所
  10) 生産拠点50ヶ所
  11) 販売網5万8,000ヶ所

(3)ハイアールの戦略
 ハイアールが中国の家電トップメーカーになるまでの伝説は、1984年に倒産寸前の赤字会社に乗り込んだ現CEOの張端敏氏がハンマーで不良冷蔵庫を叩き壊した話が伝えられている。本社の展望12階にある回廊にもそのときの写真が飾られており、社員の意識をそのハンマーで叩き壊したのである。
 今でこそ「お客様は神様です」という市場にニーズを聞けという鉄則が認識されているが、「親方赤旗?」の中国で、品質管理の重要さについて、身をもって示すというCEOの先見性が、ハイアールをここまで成長させたものであろう。
 製品開発は市場に聞くべきであり、その市場にはスピーディに反応するという姿勢、社員の評価は市場に如何に貢献したかで決めるという考え方が、有名な「イモ洗い兼用洗濯機」という常識を超えた製品の開発にもつながる。
 1996年の四川省の農家から洗濯機の排水ホースがよく詰まるという苦情が舞い込む。張CEOは、そのユーザーに「洗濯機の使い方が間違っている」ことを伝えるべきだという開発者の主張を退け、すぐさまイモも洗える洗濯機の開発を命ずる。結果は四川省での「イモ洗い兼用洗濯機」はヒットした。現在もその機種は売れている。(写真2)
 ハイアールは、研究開発費にも売上げ比率の6.5%を投入、米国の業界誌「Appliance Manufacturer」が調査した「世界の総合競争力評価」では、松下電器産業4位、シャープ7位、東芝8位に次いで9位に付けている。日立が10位である。
 更に製品のデザインは、世界的なデザイン会社である日本の潟Wイケイデザイン機構(代表取締役会長:栄久庵憲司)と1994年から「青島海高設計製造有限公司」を設立している。
 
 
4.海爾(ハイアール)金型工場の概要
 
 ハイアールの心臓部を司る金型工場は、これまで一般には公開されていない。今回、金型工場と成形加工工場、香港企業との合弁金型工場、更に冷蔵庫自動組立工場(NHKで放映公開)を見学したが、今回は紙面の関係で、金型工場の概要について紹介する。(写真3〜写真8)

  1) ハイアールの子会社として別組織になっている。1993年設立された。従業員は400名(平均年齢:26歳)である。
  2) この金型工場は、ハイアールの全製品の金型製作については、全てコントールしており、内製70%、外注30%の比率になっている。プラスチック金型が中心で月の生産は100型をこなしている。
  3) 主要な金型材料は全て日本・ドイツ等から輸入に頼っている。切削工具もOSG、日立、東芝当の輸入工具を用いている。
  4) 30%の外部の取引先はキャノン、オムロン、トヨタ、米系企業等である。
  5) 群馬県の富士精工とは技術提携をしている。
  6) 金型費用は、日本の約半額ということだが、実際は70%程度。
  7) 従業員の賃金は設計が初任給2,000元(約28,000円)、仕上げは6000元〜10000元(84000円〜140,000円)
  8) 技術者はハイアールで育成するより外部から招聘するという考え方が強い。
  9) 金型納期は洗濯機でT1まで製品図受取後60日(日本と同等)
  10) 設計はautoCADで2次元設計、Pro/E(3次元ソリッドモデル)、CAMはCIMATRON、CAMTOOL使用
  11) 組織
*総経理の下に、
  i.市場開発部(6〜7名/営業部隊:受注担当)
ii.品質保証部(測定部隊)・計測担当10名、・トライ担当7名
iii.製造部 ・準備担当(30名:平面研作、水穴あけ等)
 ・NC機械担当(40名:マシニングセンター)
 ・放電加工担当(20名)
 ・みがき加工担当(20〜30名/新人:3年未満の経験者約半分)
 ・仕上・組付担当(100〜120名)10年:20名、新人(3年未満)2〜3割
 ・CAM担当(22名)基本的に大卒
iiii.C3P部(全員大卒)
 ・光造形担当(3名)
 ・製品開発担当(12名)
 ・金型設計担当(25名)
 ・CAE担当(3名)
v.項目部(22名:生産管理・工程管理部門)
<このほか、倉庫・購買・工具・板金型管理・事務担当等で構成される>
  12) 設備:ほとんど日本製とドイツ製の機械がずらりと並ぶ。中大物加工が中心で、精密部品の金型は無理。現在、基礎の工事を行って精度物の金型加工を充実するため、やはり日本製のマキノ、ソディック、ドイツ製お高精度加工機を導入する。
  13) ハイアール金型部門が10年で、ここまで成長できた過程は、当初香港の金型技術を学び、その後、日本、米国から仕事を請けながら金型技術を導入していったという。
  14) 全体的にハイアール金型工場は、機械設備に資金投入されているため、金型コストは中国では高価になるが、工期短縮という側面で補うという考え方がある。
 
 
5.結び
 
 21世紀のアジアは、世界の中で一番可能性に満ちた「工場と市場」として、ますます発展してゆくことが予想されている。その中心が中国となるのかどうかがこの10年くらいの間に決まりそうである。かつて活気に踊った日本が、今後どんな役割を果たせるのかも予想できないが、日本人の製造業にかける情熱は、まだ失われていない。更に新しい発想と研究開発に邁進すれば、アジアとの共生は可能であろう。
 
 
【参考文献】
 

*1:週間エコノミスト2002.7.29、臨時増刊号p.45
*2:Walker CHINA誌2002.10号、p23

表1 日本と世界の投資推移
日本の対中投資の推移
世界の対中投資の推移
年度
件数
前年比(%)
年度
件数
前年比(%)
1990
341
16
1990
7,273
25.9
1991
599
75.7
1991
12,978
78.4
1992
1,805
201.3
1992
48,764
275.7
1993
3,488
93.2
1993
83,437
71.1
1994
3,018
-13.5
1994
47,549
-43
1995
2,945
-2.4
1995
37,011
-22.2
1996
1,742
-40.9
1996
24,556
-33.7
1997
1,402
-18.5
1997
21,046
-14.3
1998
1,188
-15.3
1998
19,846
-5.7
1999
1,167
-1.8
1999
16,918
-14.8
2000
1,614
38.3
2000
22,347
32.1
2001
2,003
24.1
2001
26,139
17
2002
2,745
37
2002
34,171
30.2

写真1 ハイアール本社全景 写真2 イモ洗い兼洗濯機の内部
写真3 マシンニングセンタライン 写真4 放電加工ライン
 
写真5 電極加工 写真6 設計室
 
写真7 調整中の金型 写真8 突合せ調整機
 

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